乳房を人為的に大きくする豊胸手術は美容整形の代名詞とも言えるほど普及しています。医療技術の進歩により、現在では日帰りでの豊胸手術も可能になっていますが、その一方で安易な美容整形による健康被害が社会問題になっている事実も否定できません。
安全に理想のボディラインを得るためにも、豊胸手術の方法や健康管理の方法について学びましょう。
乳房を肥大させる豊胸手術の進歩について
豊胸手術は胸部に異物を入れて乳房を肥大させる美容整形の一種です。女性の乳房を大きく見せるための工夫は古くから行われてきましたが、医療行為による肥大は20世紀になってから急速に普及しました。見栄えを良くすることを目的とした最初の豊胸手術は1950年代に普及した、シリコンを胸部に直接注入する方法でした。
これはシリコンの持つ弾力性が乳房の柔らかさに類似していたことが理由ですが、当時は異物を体内に入れることで起こる健康被害の情報が周知されていなかったことから、杜撰な手術によるトラブルが続発したのです。また、シリコンの性質が体内で変化し、石のように固くなってしまう問題も浮上したことから、シリコンを直接注入する方法は廃れてしまいました。
豊胸手術の方法が劇的に変化したのは1963年になってからです。アメリカの医療会社が封入式のシリコンパックを開発したことで再び豊胸手術が広く普及したのです。ジェル状のシリコンが直接触れることが無いので変質のおそれが無く、弾力性がいつまでも保たれるメリットが評価されました。
注入式の豊胸手術とは異なり、乳房を切開してパックを入れる外科手術が必要になることから手間がかかる欠点がありましたが、その欠点を差し引いても乳房の再現度が高い点が好まれたのです。その一方で合成樹脂の一種であるシリコンを体内に入れることへの忌避感から、豊胸手術に否定的な意見も根強く残っていました。
そのような中、シリコンの代わりに生理食塩水を封入したパックが開発されたのです。
塩水を使った豊胸手術が受け入れられた理由
生理食塩水は体液とほぼ同じ塩分を含んでいる医療用の食塩水です。塩水の一種ですが、点滴や注射を使って体内に注入させる薬剤として扱われています。水分不足を補う理由で使われるのが普通ですが、細胞をほとんど傷つけないという理由から豊胸手術の材料として注目されたのです。
1965年、フランスで生理食塩水を封入した豊胸用のパックが開発されるとシリコンとは異なる天然素材という点が好まれ、急速に普及しました。封入式のパックを使った豊胸手術では乳房の内部でパックが破れてしまい、漏れ出たシリコンが炎症や痛みを引き起こすトラブルが生じていました。
このトラブルが表面化したことも生理食塩水のパックが受け入れられた理由のひとつです。生理食塩水は体液とほぼ同じ成分なので万が一、パックが破れて漏れ出ても重大な健康被害に陥ることは無いと思われたのです。実際は大量の生理食塩水が胸部を圧迫することで血管や神経に悪影響が及ぶので、漏れ出ても安心ということはありません。
しかし、シリコンのように石油由来の化学製品では無いことや体液とほぼ同じ成分という事実が体に良いというイメージを生んだのです。また、豊胸手術を行う医療業界でも生理食塩水パックは高評価でした。シリコンパックと比べて安価で購入できる他、廃棄する際のコストも低く抑えられる点が好まれていたのです。
生理食塩水パックの改良と安全性の問題について
豊胸手術に使う生理食塩水は1965年に開発されて以来、長らく目立った改良は行われていませんでした。生理食塩水の成分が体液とほぼ同じというメリットが重視されていたのが理由ですが、1995年に高分子ポリマーを添加し改良品が開発されました。
高分子ポリマーは加工が容易な他、衝撃に強い特徴があります。また、少量の水を吸収すると容積が大きくなる性質があることから、生理食塩水の使用を少量に留められる点が注目されたのです。従来の生理食塩水パックと比べて弾力性に富み、コストも低いメリットがありましたが、体内に長く入れると高分子ポリマーが変質して体に悪影響をもたらす可能性があることが発覚し、現在では使用されていません。
その後も様々な添加物が使われてきましたが、現在に至るまで生理食塩水だけを封入したパックが広く普及しています。豊胸手術そのものについては新しい技術が開発されたことにより、封入パックを使う方法は次第に件数が減少しています。
しかし、生理食塩水の封入パックの安全性は現在でも高く評価され、安価な豊胸手術として多くの国で行われているのです。
乳房が固くなるのを防ぐのが豊胸手術の課題
豊胸手術は単に乳房を肥大させるだけでお終いではありません。術後の体調管理、特に乳房が固くならないように防ぐことが重要なのです。豊胸手術に関するトラブルの中でも肥大させた乳房が固くなってしまう問題は古くから指摘されていました。
当初はシリコンを直接注入することで起こっていた問題でしたが、後にシリコンや生理食塩水を封入したパックを使った豊胸手術でも同様のトラブルが多発したことにより、胸部に異物を入れること自体が乳房が固くなる理由と見なされたのです。
異物を入れるとなぜ乳房が固くなるのか、明確な理由は判明していません。しかし、マッサージを施すことで固くなるのを予防できることは知られています。そのため、豊胸手術を行った後は定期検査を受けると共に、こまめにマッサージを行って乳房が固くならないように努めることが大切なのです。
マッサージは自分で行うのが普通ですが、痛みや固さを感じる場合は医療機関で検査を受け、適切な処置を施してもらう必要があります。
豊胸手術は事前の情報収集が不可欠
豊胸手術は医療保険が適用されない審美治療の一種です。患者が費用の全額を負担することになりますが、その一方で医療機関の側が金額を自由に決めることができます。そのため、同じ豊胸手術でも出費を抑えることは決して不可能ではありません。
豊胸手術を手掛けている医療機関の多くは手術費を公開しているので比較は容易です。
もちろん、人によって最適な手術方法は異なる他、術後のケアは別料金となることが多いので一概には言い切ることはできません。自分の体に最適な方法を選ぶことを第一に考え、その点を踏まえたうえで金額を比較するのが安全に乳房を大きくするための秘訣です。
豊胸手術後のケアは理想のボディラインを保つのに不可欠なので、ケアについて触れていない医療機関は避けるのが無難と言えます。